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CSR(企業の社会的責任)の基本は、顧客満足の追求だと考えております。特に消費財を扱っておられる皆さんは、消費者からの信頼をどのようにして勝ち取るかということで日夜、ご腐心されていると思います。
一方で、消費者保護が国の重要な政策課題になっており、いろいろな法律も整備されております。従って消費者関係の法律をきちんと守る、ということがコンプライアンス(法令順守)としてはもちろんのこと、CSRとしても重要な課題ではないでしょうか。今や消費者問題に対応できなければ、マーケットから退場を命じられかねない状況なのです。
昨年、抜本改正された消費者基本法では、国や自治体と並んで消費者保護に対する事業者の責務が具体的に盛り込まれたことが目を引きます。消費者と事業者とでは、情報の質・量や取引上の交渉力などに大きな格差があることを前提として事業者は、消費者の安全や取引における公正さを確保しなければならないのは当然のことですが、消費者の知識、経験などが必ずしも十分ではないことにも配慮しなければならないとされています。
これも当然ですが、消費者に対して明確で平易な情報の提供に努めなければならないということとか、消費者からの苦情の処理体制を整備して、適切に処理しなければならないという責務も明記されております。さらに、国や白治体の消費者政策に対して、事業者は協力しなければならないということも規定されています。さらに、この法律では消費者が商品選択を誤ることのないよう、虚偽・誇大な広告や表示を規制し、消費者の合理的な選択の機会を拡大するために公正で自由な競争を促進しなければならない、と謳(うた)っています。要するに、消費者保護のための事業者の責務は非常に大きいのです。




ところで、消費者利益の保護とはどういうことか・・この問題を考える時、とにかく消費者利益を守るためには、国が何でもかんでも規制するというような考え方がずっと長い間続いてきたような感じがします。つまり、事業者を事前にチェックするために、事業活動をするには許認可が要るというような、事前の規制が消費者の利益を守るんだという考え方だったと思うのですが、それは誤りです。
消費者利益とは消費者基本法にもあるように、消費者が自分のニーズに合った商品、自分の気に入った商品を選び、それを購入する機会が十分に与えられるようにすることなのです。つまり、企業の方々が、大いに競い合って消費者の気に入るような、良質で、廉価な、そして多様な商品を生産し、販売するということ。そして、その中から消費者が自分の好きなものを選べるということ。その機会が多ければ多いほど消費者の利益というものが守られる・・これが基本的な考え方です。
これは今、私が言い出したわけではなくて、何十年も前にアメリカの経済学者がこのようなこと言っております。要するに、消費者利益というものは国や自治体などによる規制ではなく、企業同士の競争によってより良く守られるのだ、ということです。
こうした競争の大前提として、消費者に必要な情報、正しい情報がきちんと提供されなければいけません。誤った情報に基づいて取引が行われる、商品選択が行われるならば、消費者の利益を害するだけではなく、自由経済を歪めることにもなりかねません。




冒頭申し上げたCSRやコンプライアンスという問題を消費者保護、景品表示法を対象にして、かつ、その担い手としての公取協を前提にして具体的に考えてみたいと思います。まず公正競争規約の順守ですが、これほど絶対確実なコンプライアンスはありません。会員の方々の表示・広告は、公正競争規約に従っておりますから景品表示法違反は起きない。それに引き換え、会員ではない方々の表示・広告は、いちいち気をつけて見ないと間違いがあるかもしれないのです。
さらに公正競争規約の良いところは、景品表示法ではカバーできない「商品を選択する際に必要な情報」を消費者に提供すべきことが盛り込まれていることです。そういう意味で、消費者にこれ以上信頼されるものはないでしょう。 従って今後とも具体的事例を踏まえ、一層充実させていくことが大事なことだと思います。
また、消費者利益を守り、信頼を勝ち取っていく上で公正取引協議会には、景品表示法や公正競争規約以外の仕事や責務があるのではないかと思っています。何しろ公正中立な組織であり、当然ながら豊富な専門知識や取引に関する情報も持っています。また、公正中立であるがゆえに、言いたいことがあれば会員企業に対してもはっきりとモノが言える組織でもありますから。
例えば、景品表示法や規約に違反する表示・広告にとどまらず、すべての表示・広告について消費者からの疑問に答え、苦情にきちんと対応できるような仕事をしていくことも必要でしょう。また、購入した商品の使い勝手や不具合といった問題についても、公正中立な立場で消費者の良き相談相手になる、ということも協議会には求められているのではないでしょうか。
自動車などの極めてメカニカルな製品の場合、選択のためには一定の知識、情報というものが本来は必要です。しかし、消費者すべてがそのような知識を持っているわけではありません。友人や知人などにアドバイスを求め、それを参考にして、それに自分の懐具合や好みを基に商品を選ぶという人も多いでしょう。その意味では、やはり専門的な知識を持ち、同時に公正中立な組織である公取協が、消費者の商品選択の際のより良い相談相手になることが期待されていると思います。また、そういう特徴は今後も大いに伸ばしてもらいたいと思っています。
紛争処理という観点では、ご承知のようにADR(裁判外紛争解決)という仕組みができます。このための法律は昨年公布され、07年の5月ごろには施行になる見通しです。紛争解決機関には法務大臣の認証が必要ですが、そういう組織に公取協がなっていくということも考えていかなければならないと思います。




一方、例えば、公取協は公正競争規約以外の点でも会員の皆さんに役立つ存在であると思います。公取協に寄せられた消費者の生の声や異体的な苦情などを整理し、会員に提供することも極めて大事な仕事でしょう。また、景品表示法は独占禁止法から出てきた法律ですから、公取協も独占禁止法に精通し、会員からの相談を引き受けたり、場合によっては会員と公正取引委員会との懸け橋になる、という業務も考えるべきではないかと思います。
現在、いろいろな業種に公取協があり、その数は80以上に上ります。その中で一番進んでいるのは、この自動車公正取引協議会だと思います。
これらの公取協がきちんと消費者問題に取り組むことが日本の消費者保護政策の重要な手段だと思いますので、自動車公正取引協議会が全公取協のリーダーとして大いに活躍し、そうした活動が消費者利益の保護につながっていくということが、大いに望まれているのではないかと思います。